第三章

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焼け落ちた軍事工場から見つかった兄・カツミの遺体は首より下の損傷が激しく、母の待つ家まで運ぶことは不可能だった。 タケシは転がっていたトタン板に亡骸を乗せ、それを引き摺って すぐ側を流れる川土手に向かう。 広い土手では あちらこちらで細い煙が立ち上り、多くの人々が疲れ果てたように座り込んで その煙を眺めている。 皆、自分たちで死体を荼毘に付していた。 決してまともな光景ではないのに、少しも違和感を感じない。 酷く乾いた熱い空気だけが 辺りを支配している。 「兵隊さんよ、この隣を使いんさい。うちの娘は もう骨になったけぇ」 ハッとなると、目の前に座っていた初老の男が チロチロと火が見える場所を指差した。 「念仏の一つも唱えてやらんにゃのぅ。ワシらがせめて出来ることじゃけぇ」 男は立ち上がり、南無阿弥陀仏と呟きながら まだ白く煙る焼け跡を素手で掻き分け、灰色の棒切れを拾い始めた。
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