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タケシはギュッと目を瞑る。
本川町の中田 敏子と名乗っていた。
兄の遺骨を家に連れ帰ったら、すぐに女の身内を探そうか。
壊滅状態のこの街で、そう易々と見つかる筈はないだろうが せめて…
しかし
奇跡的に出会えたとして何と言えばいい?
あれほど欲しがっていた、たった一口の水も与えず、彼女を見殺しにしたと?
空に還っていく兄の煙を追いながら、口の中で念仏の代わりに「すまんかった」と幾度も呟く。
タケシの懺悔は、決して消えることなく焼けた地に染み込んでいった。
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