第四章

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「…水を飲んだら死ぬ、というのは もちろん大きな誤解です。正確には、致命的な火傷を負って命の灯火が消えかけている人間が、喉の渇きを潤したと同時に安堵して息絶えてしまうのを目の当たりにした人々の思い込みから始まった、悲しいデマです」 あぁ、眠っている生徒の多いこと。 やはり私の話し方が下手なんだろうか。 「私の大叔父の最期は、助かった女工さんが後日、祖父に会いに来てくれて分かったのです。カツミさんが逃がしてくれたから自分たちは助かった、カツミさんを犠牲にしてしまったと、彼女は泣きながらお詫びをしたそうです」 最後列では女子生徒同士、コッソリと何かを囁き合って笑っている。 今は何でも楽しい時期だよね…私にも、そんな時があった。 まだ梅雨入りもしていないのに、放たれた体育館の窓から降り注ぐ強い日差しは、季節外れの熱を持っている。
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