第四章

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五時限目の体育館は、気怠い雰囲気に包まれていた。 パイプ椅子に腰掛けているとはいえ、興味のない話に縛られたこの時間は、高校生の彼らにとっては苦痛でしかないだろう。 しかし 常に壇上の私と目が合う、しっかりとした複数の眼差しが 確実にあることも確かだ。 「祖父は、あの日の事を長く誰にも話さなかったそうです。言葉にするにはあまりにも辛苦な体験だったからだと思います」 この百人余りの中の、一人だけでも構わない。 「ただ一度だけ、祖父の母親…私の曾祖母が亡くなった時、葬いに来た人々に 普段 全く飲まないお酒を口にして唐突に語り出したと、祖母から聞きました」 私が、祖父の体験をこうして辛うじて繋げているように、その一人がまた 次に繋げてくれたなら。
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