Chapter 4

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すうっと日射しが遮られたので、不思議に思った少女は太陽の眩しさに目を細めながら空を仰いだ。 みるみる遠ざかっていく翼は、少女の知るどの鳥よりも遥かに大きい。 「スパルナ族だ。ねえお母さん、スパルナ族だよ」 「また飛んでるの?」 母親はわざとらしい程に顔を顰め、少女の手をぎゅっと握った。 「お母さん、ほら、すごく綺麗に飛んでるよ。いいなあ、アニタも飛んでみたいなあ」 「ふん。馬鹿な事言ってるんじゃないよ。いいかい、あいつらはね、裏切り者なんだ。あたしたち仲間を裏切って、人間に媚びを売って生きてんのさ。そんなのを羨ましがったりするんじゃないよ」 “こび”ってなんだろう? アニタは首を傾げたが、母親の機嫌がひどく悪そうだったので、質問は控えた。 その時、母子の後ろから、さも愉快そうな笑い声が聞こえてきた。 「夢を見るくらい良いじゃないか、エマ。地上の生き物は大抵、大空に夢を描くものだ、そうだろ?」 振り向くと、砂色の髪を持つ長身の男が、黒い大きな鞄を持って小屋から出てきたところだった。 幼なじみのこの男は、間違いなくこの居住区で生まれ育ったラクサーシャである。が、限りなく人間に近い容姿をしていた。特徴のひとつである、太く、金色の毛がびっしりと生えた腕も、長袖を着れば隠せるし、それに手首から先は人間のものと寸分変わらない、5本の長い指のある「手」だ。 エマは無意識に男から視線を反らした。普段はまったく気にしていないが、この男を前にすると、獣の血が色濃く現れた己の顔が、少しだけ疎まれた。
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