Chapter 4

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アーロンのその()に呑まれたのだろうか、普段は陽気な男たちも皆、殺伐とした空気を纏っている。 「ああ、抜かりないよ」 「ったく、目障りだ」 「えっ?」 「英雄だか何だか知らないが、人間どもにうまいこと祭り上げられていい気になってやがる」 自分を目障りだと言われたのかと思い、イザークは肝を冷やした。アーロンという男は、その悪魔のような外見に(たが)わず、冷酷無比なところがあった。 「で、でもそれは別に、今に始まった事じゃないだろ?」 「なんだイザーク、おまえはヤツらの肩を持つのか」 そういう事ではないんだが、とイザークは肩を落とした。だがそれを口にしたところで、貴重な時間が無駄に潰れるだけだ。 「……ほらよ、お連れしたぞ。女神様だ」 イザークは傍らの鞄を開けると、無造作に手を突っ込んだ。アーロンを中心にじっと座っていた男たちが、固唾を呑んで一斉に身を乗り出す。 鞄から引き抜いたイザークの手に視線が集まる。イザークは仲間の顔一人ひとりをゆっくりと見回してから、もったいぶるように手を広げてみせた。 大きな手のひらの真ん中に、漆黒の小さな球体が3つ寄り添っていた。それは室内の僅かな光にも艶やかに輝き、まるで凛とした黒曜石のようだ。 「これが……」 尖った耳と鋭い爪を持つロジェが、ごくりと喉を鳴らした。 「そう、運命の糸を切る女神、アトロポス」
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