Chapter 4

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***** アッシュフィールド駐屯地に兵士たちが引き上げてきたのは、あと5日で4月になるという頃だった。 居住区の監視は、憲兵隊も交えて継続されている。 第2居住区の破壊された鉄条網はしっかりと補強され、市街地にはもうヘルハウンドの姿は見当たらなかった。当初、逃げ出したのは10頭くらい(・・・)という情報だったが、実際は9頭だったという事だ。 何台も連なった馬車や兵士を乗せた馬が駐屯地の門をくぐるたびに、イリヤは目を皿のようにして凝視した。門の近くにある建物の2階、様々な書物で埋め尽くされた資料室である。その窓にぺたりと張り付き、吐き出す息で窓を曇らせていた。 「ううむ……わからん」 張り付いたまま唸るイリヤに、だらしなく椅子に座ったマリウスが怠そうな目を向けた。 「おまえなにそのカッコ。ヤモリかよ?」 「リュークヴィスト准尉も帰ってくるよなあ? なあ、帰ってくるよなあ?」 「そりゃ帰ってくるだろ」 「馬車かなあ、馬かなあ……なあ、おまえどっちだと思う?」 「知らねぇよ」 居住区の監視と訓練の合間に、フェルザー中隊長からラクサーシャについての資料を集めるよう命じられていたが、資料室に入るなりマリウスは休憩を決め込み、イリヤは窓に張り付いて動こうとしなかった。資料は1冊たりとも探していない。 「でも、結局なんだったんだろうな」 窓に額をつけたままぽつりと呟いた。
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