Chapter 4

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その言葉に、マリウスが眠そうな目をイリヤに向けた。 「なんで野獣化した? 奴らのなかに流れてる獣の血が突然目覚めたっていうなら、何かきっかけがある筈だ」 「まあ、確かに、伝染性の病気が原因だったら、どんどん増えてくだろうしな」 「バシャル・ナシュワって知ってるか?」 「あ?」 突如イリヤから放たれた呪文のような言葉が何を意味するのか、人名か地名か、カテゴリさえさっぱり解らず、マリウスは眉を顰めた。 「俺、社会学がけっこう好きでさ。高等学校にいた時、授業とは別に先生に教えてもらった事があるんだよね」 「その、ナントカカントカってヤツをか?」 こくりとイリヤが頷いた。 「バシャル・ナシュワ、非公式な団体で、その、あんまり良くないと俺は思う」 団体名だったか──だが聞いた事がない。もっともマリウスは、初等学校もろくに通っていなかった。週の半分は働きに出ていた。 「設立は70年ほど前、人間がこの国をラクサーシャから奪った頃だ。ここからは、おまえが知ってるこの国の歴史とは違うと思う……もともと、ずーっと昔は、ここに人間も住んでて、ラクサーシャと共存してた。人間の王とラクサーシャの王、二人の王様がいたんだ。  けどある時、大事件が起きた。ラクサーシャが武力で政権をとって、人間をこの土地から追いやった。そして、人間は最初からここにはいなかった、もともとがラクサーシャの土地だったって、歴史を改竄(かいざん)したんだ」 「はあ?」 思いきり顔を歪めながら、マリウスは体を起こした。
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