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「意味わかんねえ。じゃあ、人間が一方的に侵略したって訳じゃねぇのかよ? 穏和だけど野生化する可能性のあるラクサーシャの増加を恐れて、ラクサーシャを居住区に──」
言いかけて、はっと言葉を呑む。
野生化する可能性があるから、という理由だけで居住区に閉じ込めている訳ではない……ラクサーシャによる政権奪還を恐れての措置なのか?
「……でも、俺はおまえの言う事を鵜呑みにもできねぇぞ」
「ああ、それは別にいいんだ。俺だって半分おとぎ話みたいなもんだって思ってたから」
くるりと体の向きを変え、マリウスと向き合った。そのイリヤの表情は至極真剣で、からかったり嘘をついている様子など微塵もなかった。
「で、バシャル・ナシュワだ」
「あ、ああ……」
いつもの、単純で短絡的な思考のイリヤは身を潜めていた。もともと好奇心旺盛で探求心も強いところはあった。見ていて危なっかしく思えるほど。
「奴らは、人間こそが地上を統治するのに相応しいって思ってる。いわゆる人間至上主義ってヤツだ。70年前にここを侵略したのもバシャル・ナシュワのメンバーだったと言われている」
「……てことは、ラクサーシャを居住区に閉じ込めた本当の理由ってのは」
「政権奪還の阻止、それと、人間をこの地から追いやった事への報復」
突如低く響いた声に、イリヤとマリウスは瞠目し、同時にドアへと目を向けた。
いつからそこにいたのか──ジークヴァルト・フェルザー中隊長が、腕を組んでドアに寄りかかっていた。鋭い眼光がまっすぐにイリヤを射抜く。
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