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驚愕と恐怖と狼狽が混ざりあって押し寄せてきて、イリヤは瀕死の魚のように口をぱくぱくさせて喘いだ。思考は停止し、ただ「ヤバい」という言葉だけが脳を埋め尽くす。
「勤勉家だな、イリヤ・エオディン。父上が心配なさる訳だ」
違います勤勉とかじゃなくてただ興味があっただけで興味本意で教えてもらっただけで──言い訳が虚しく宙に消える。
「知りたいという気持ちはすごく大切だ。だが、この件に関しては、他言はするな」
「あ、は、はい……」
赤面し俯きながらも、フェルザーが“バシャル・ナシュワ”を知っていた事に驚きを隠せない──否、国の中枢に近い人物だからこそ、知っていて然るべきなのか。
「バシャル・ナシュワが引き起こす厄介事は、憲兵隊が秘密裏に処理している。軍部でも、組織の存在を知る者は、ほんのひと握りの幹部だけだ。なんとなくそういった思想がある、だがそれは単なる噂にすぎない──決して公にしてはならないんだ、解るね?」
フェルザーはイリヤとマリウスを交互に見遣ったが、二人から答えを引き出すのは無理なようだった。理解するには、話が大きすぎるのだ。
「この話は、他に誰にもしてないね?」
再びフェルザーの目に捉えられ、イリヤは慌てて何度も首を縦に振った。
「誰にも……ち、父にも話してません」
「君に話したという教師は、どうしている?」
「翌年に異動になったとかで……どこに異動になったかまでは」
ふむ、とフェルザーは頷いた。現在その教師と接点はないという訳だ。
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