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フェルザーは暫し考え込むようにじっと足元を見つめていたが、やがてふと顔を上げた。
「人間至上主義……君たちはこの思想をどう考える?」
「あ……えっと、あの……」
「改まる必要はない。ここには私と君たちしかいないからな。率直な考えを聞かせてほしい」
「いや……ちょっと、極端かな、と……」
「極端」
イリヤの言葉を、フェルザーは敢えて繰り返して先を促した。
「はい、だって、ラクサーシャだって半分は人間の血が流れているんだし。半分、違う血が流れてるからって、人間の方が偉いとか、思い上がりだと思う……思います」
「マリウス、君は?」
矛先が自分にも向けられた事で、少し驚いたようにマリウスは眉を上げた。
「聞いた事はある……ラクサーシャを毛嫌いする人間がいるって。今回のヘルハウンド騒ぎで、もっと酷くなっただろうし、そう思う人間も増えたとは思う。ただ、組織化してるとは知らなかった。誰が得をするんだ……人間とラクサーシャを争わせて──」
フェルザーが片手を上げてマリウスを制した。
バシャル・ナシュワの存在を知っているだけならともかく、そこを掘り下げて考えてしまう頭脳は危険だ。
片手を上げたままフェルザーは考え込んだ。今でこそ表立った活動は見られないが、武力でラクサーシャを制圧するなどかつては過激な集団だった。そして現在でも、国内で起こる犯罪の幾つかは、バシャル・ナシュワが関係している。
そうした集団を相手に、僅かでもバシャル・ナシュワの存在を知る二人を自由にさせておくのは危険ではないか。
フェルザーは決断した。
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