87人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日突然、言葉が戻った。
以前のように流暢とはいかないが、自分の声で、言葉で、思いを伝えられるようになった。ターニャは涙を流して喜んでくれた。
ヘイデンでの、あの時の記憶は曖昧である。ひとつひとつの出来事は思い出せるのだが、それらをうまく繋ぎ合わせる事ができない。
アデルに関する最後の記憶は、夜明け前の蒼い空へと飛び立っていく姿だった。そこからプツリと記憶が途絶えている。
だから、心配だった。あの後アデルはどうしたのか。無事に駐屯地へと戻ったのか──
「イゾラはどうした?」
アデルの冷たい蒼灰色の瞳がフェルザーを捉えた。
「あ、ああ、途中でターニャに捕まってね」
「この事は、ここにいる人間しか知らねえって事か」
「状態が状態だったからさ……」
申し訳なさそうにターニャが眉を下げる。が、それも一瞬の事で、すぐに口角が耳まで上がった。
「ていうか、大変なんだよ!」
「大変てわりには嬉しそうだな」
「いや、ものっすごく大変なんだ! 国家レベルでヤバイんだ!」
「テメエ、言ってる事と顔が矛盾してるぞ」
この興奮しきった怪力女から要領を得た情報を引き出すのは困難と判断したアデルは、ちらりとフェルザーを見遣ったが、そのフェルザーも困りきった顔で肩を竦めた。
「ずっとこの調子でね……俺も、なにがなんだか」
クソッ──アデルは小さく舌打ちした。
とにかく落ち着かせなければならない。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ女を黙らせる方法といえば──
最初のコメントを投稿しよう!