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アデルは片手をターニャの目の前にかざした。
「ターニャ、待て」
「んっ」
反射的にターニャが口を噤む。
「よし、いい子だ……すわれ」
「んっ」
フェルザーの隣の椅子にすとんと腰を降ろす。
「できるじゃねぇか。いい子だから、一度深呼吸してみやがれ」
素直に応じるターニャを唖然と見ていたフェルザーが、やがて小刻みに肩を揺らし始める。笑い声は必死に堪えた。
「いいか、これからひとつずつ質問する。ひとつの質問に対する答えはひとつだけだ、解ったな?」
「んっ」
「テメエの言う“国家レベルでヤバイ”ってのは、どっから仕入れた情報だ?」
「ニコラだ」
「ヘルハウンドについてか」
「いいや、違う……いや、違うとも言い切れないな」
ターニャの答えに、アデルはフェルザーへと目を向けた。そのまま尋問を続けるように、とフェルザーが目で合図をする。アデルは再びターニャと向き合った。
「ラクサーシャか」
「そう……なんだろうな、たぶん」
なんとも歯切れが悪い。
「たぶんって何だ」
「解らないんだよ。ヘルハウンドかラクサーシャかよく解らないのが、存在するらしいんだ」
よく解らないものを必死に説明しようとするターニャを見ながら、アデルは僅かに瞠目した。
ヘルハウンドのような狂暴性を持ち、だが同時に人間である部分も持ち合わせる存在──心当たりがありすぎる。
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