Chapter 5

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アデルは片手をターニャの目の前にかざした。 「ターニャ、待て」 「んっ」 反射的にターニャが口を噤む。 「よし、いい子だ……すわれ」 「んっ」 フェルザーの隣の椅子にすとんと腰を降ろす。 「できるじゃねぇか。いい子だから、一度深呼吸してみやがれ」 素直に応じるターニャを唖然と見ていたフェルザーが、やがて小刻みに肩を揺らし始める。笑い声は必死に堪えた。 「いいか、これからひとつずつ質問する。ひとつの質問に対する答えはひとつだけだ、解ったな?」 「んっ」 「テメエの言う“国家レベルでヤバイ”ってのは、どっから仕入れた情報だ?」 「ニコラだ」 「ヘルハウンドについてか」 「いいや、違う……いや、違うとも言い切れないな」 ターニャの答えに、アデルはフェルザーへと目を向けた。そのまま尋問(・・)を続けるように、とフェルザーが目で合図をする。アデルは再びターニャと向き合った。 「ラクサーシャか」 「そう……なんだろうな、たぶん」 なんとも歯切れが悪い。 「たぶんって何だ」 「解らないんだよ。ヘルハウンドかラクサーシャかよく解らないのが、存在するらしいんだ」 よく解らないものを必死に説明しようとするターニャを見ながら、アデルは僅かに瞠目した。 ヘルハウンドのような狂暴性を持ち、だが同時に人間である部分も持ち合わせる存在──心当たりがありすぎる。
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