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「夜会からの帰りに森で襲撃された。襲撃してきたヤツってのが、ヘルハウンドみてぇな狂暴性を持ったラクサーシャだった」
「えっ……ちょっ……襲撃!?」
「な、なんでアデルは、それがラクサーシャだって思ったの?」
思わずニコラはアデルの方へと身を乗り出した。隣ではターニャが興奮で顔を真っ赤に染め、顎が外れそうなほどに口を開いている。
「ヘルハウンドにしちゃ、ずいぶんとおしゃべりだったからな」
「ねっ、ねえねえっ、それ、ほんとにラクサーシャだったの? 獣のフリした人間とかじゃないの?」
「人間の身体能力を遥かに越えてた──」
「おしゃべりだったって、何かしゃべったの? 何をしゃべったの?」
「ターニャ」
「なにっ」
「待て」
「んっ」
またしても反射的に口を閉ざし、ふと我に返る──自分はなぜアデルの「待て」に忠実に従ってしまうのだろう。
「俺が遭遇したのは、3頭とも豹のような体つきだった。スーツ姿の獅子といい、ラクサーシャが居住区から出てうろうろしてんのは、もう疑いようがねぇな」
「なぜ……一体どこから……」
「おいジーク、そいつを突き止めんのがテメエの役目だろ。命令しろよ」
「だが……」
「もたもたしてる暇はねぇぞ」
そんな事を言われても、何をどう、どこから手をつけるべきかさっぱり解らない。そもそもアデルには、時間をくれと馬車のなかで言ったばかりだ。
皆の目が自分に集まるのを感じながら、フェルザーは手の甲で額の汗をぬぐった。
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