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そのフェルザーの腕にそっと手が添えられた。驚いて顔を上げると、アデルと目が合った。
「なんの為に俺がいる?」
なんの為に──
アデルの言わんとする事を察し、フェルザーは眉間に深く皺を寄せた。
「さっきも言ったが、奴らは俺を狙ってた、アーシラルドの“英雄”をな」
「アデル、あなた、エサになってくれるの!」
「……囮になってやる、エサにはならねえ」
「ああっ、言い間違えた、言い間違えたんだよアデル!」
「アデル、駄目だ」
同時に同じ言葉を発し、フェルザーとニコラは互いに顔を見合わせた。
「……短絡的に考えるもんじゃない。他に方法がないか、いろいろと検討して──」
「悠長に机にしがみついてる場合かよ?」
「考えなしに突き進んだところで、いい結果が得られるとは思えない」
「俺たちを信じろよ」
ふとフェルザーは押し黙った。
信じていない訳ではない、ただ──
ただ、己の安易な判断で、彼らを失うのが怖いだけだ。
「……ま、今すぐクソ素晴らしい作戦を立てろなんて無理は言わねぇよ。明日の朝、聞かせてもらう」
「よしっ、じゃあ、明日の朝、ジークの部屋に集まろう!」
「おい、そんな勝手に──」
フェルザーに構わずニコラに向き直ると、アデルは僅かに目を細めた。ニコラは思わずシーツを握り締めた。
「ゆっくりでいい、少しずつ体力をつけろ。また、顔を出す」
「アデル……」
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