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顔面を暗紫色に腫れ上がらせた3人の男たちは、床に膝をつき、ただじっと俯いているしかなかった。
「ヘマしやがって……」
「しかも致命的なヘマ」
付け足された言葉に、男たちはびくりと竦み上がった。
「さんざん姿を晒した挙げ句、取り逃がしたとはな」
忌々しげにアーロンが床へと唾を吐き捨てた。
「……で、どうするつもりだ?」
男たちは居心地悪そうにもそもそと体を動かし、すがるような目を真ん中に座る男、エルヴェに向けた。
「つ……次は、うまくやる……」
「次があると、本気で思ってるのか?」
「も、もう一度、チャンスをくれ。ヤツの動きは把握した、次は、ヘマなんかしねえ」
命惜しさに必死に訴えるエルヴェを蔑みながらアーロンは腕を組み、人差し指をゆっくりと腕に打ち付けた。
姿を晒した──のみならず、あろうことかベラベラと喋りやがった。こいつらが“聖獣”とは別のものであると、わざわざ敵に知らしめたようなものだ。
おそらく、近いうちに再び軍が動くだろう。居住区をくまなく調べあげられる事になるかもしれない、むしろそうなる可能性のほうが高い。
「イザークの見込み違いだったな。戦闘能力は確かに高いかもしれないが、馬鹿はどうにもしようがない」
時を刻むように腕を叩いていたアーロンの指がふと止まった。
「ま、待ってくれ」
殺される──
男たちは無様なほどに怯え、狼狽えた。
“聖獣”になり損ねた男がどうなったか、エルヴェは嫌というほど知っていた。男に直接手をくだしたのは他でもない、自分たちなのだ。
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