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「ともかく、俺が行かなきゃなんねえ。イリヤ、マリウス、おまえらにも付き合ってもらう」
付き合う……ええ喜んで!
顔面を紅潮させ荒い鼻息を繰り返すイリヤを押しやり、マリウスが小さく片手を上げた。
「ルートは変えますか?」
「いや……森を抜けるのが一番早い。昨日の今日だ、向こうだって態勢を立て直すのに2、3日はかかるだろう」
「万が一の場合は──」
「その為におまえらがいるんだろ」
マリウスはぐいと唇を引き締めた。隣ではイリヤが目をギラギラさせている。
これは──もしや囮作戦でも実行するというのだろうか、それともただ単に、本当に“お使い”だけが目的なのだろうか。
もし作戦実行だとしたら、スピア班の一員である自分たちにも当然知らされるべきだ……
いや。
准尉は内通者の存在を断言していた。もしかして、既に目星をつけているのだろうか。内通者を炙り出す為の“お使い”なのでは──
「ご……護衛は、自分たちだけですか?」
マリウスの質問に、アデルが怪訝そうに眉を寄せた。
「なんだ、自信がないのか」
「……」
「自信がねぇなら来なくていい。兵士なんて辞めちまえ」
来なくていい……その答えからでは“お使い”の本当の目的が判らない。炙り出しではない? ただの“お使い”なのか? 囮作戦であるなら、さまざまな理由をつけて、もっと護衛を増やす筈。
「……いえ、大丈夫です」
アデルは暫し無言でマリウスを見つめていたが、やがてふいと部屋を出ていった。
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