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アデルが去った後、張りつめていた緊張の糸がぶっつりと切れた。イリヤとハーヴェイ、それにジェレミーまでもが同時に深々と息をつき、力尽きたようにベッドへ倒れ込んだ。
「な……なんだあれ。半端ねえ……なにあの威圧感」
呼吸を荒げながらハーヴェイが呟いた。
「あー苦しかった。俺、途中から息すんの忘れてたよ」
「え、ジェレミーおまえ、神経図太いくせに」
「神経図太いのはおまえだ、イリヤ。よくあんな恐ろしい班で生きてられるよな」
スピア班、通称フェルザー中隊長のパシリ班。
パシリとはいえ班長はあのアデル・リュークヴィストである。表向きの活動内容は、フェルザーの手がまわりきらない事案をアデルが引き継ぎ、班員がアデルの補佐をする、という事になっているが、あながち間違いではない。
「別に准尉は恐ろしくはないよ。ただちょっと……いつも不機嫌そうに見えるだけ」
「さっきだってマリウスに、辞めちまえとか言うし」
「ああ、それは“自信がないのに無理して戦闘に加わって死んでほしくない”っていう准尉の優しさだよ」
「はあ?」
上半身を起こしながら、ハーヴェイがひどく顔を歪めた。
「なんだテメエは。准尉の通訳かよ?」
「通訳?」
通訳とは、つまり、アデル准尉が本当に言いたい事が解るという──
「なに顔赤くしてんだよ、気持ち悪ぃな」
なんと言われようと構わない。これからはアデル准尉の通訳として生きていく。
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