Chapter 5

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アデルが去った後、張りつめていた緊張の糸がぶっつりと切れた。イリヤとハーヴェイ、それにジェレミーまでもが同時に深々と息をつき、力尽きたようにベッドへ倒れ込んだ。 「な……なんだあれ。半端ねえ……なにあの威圧感」 呼吸を荒げながらハーヴェイが呟いた。 「あー苦しかった。俺、途中から息すんの忘れてたよ」 「え、ジェレミーおまえ、神経図太いくせに」 「神経図太いのはおまえだ、イリヤ。よくあんな恐ろしい班で生きてられるよな」 スピア班、通称フェルザー中隊長のパシリ班。 パシリとはいえ班長はあのアデル・リュークヴィストである。表向きの活動内容は、フェルザーの手がまわりきらない事案をアデルが引き継ぎ、班員がアデルの補佐をする、という事になっているが、あながち間違いではない。 「別に准尉は恐ろしくはないよ。ただちょっと……いつも不機嫌そうに見えるだけ」 「さっきだってマリウスに、辞めちまえとか言うし」 「ああ、それは“自信がないのに無理して戦闘に加わって死んでほしくない”っていう准尉の優しさだよ」 「はあ?」 上半身を起こしながら、ハーヴェイがひどく顔を歪めた。 「なんだテメエは。准尉の通訳かよ?」 「通訳?」 通訳とは、つまり、アデル准尉が本当に言いたい事が解るという── 「なに顔赤くしてんだよ、気持ち(わり)ぃな」 なんと言われようと構わない。これからはアデル准尉の通訳として生きていく。
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