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デ・フレーセの言葉を細かくメモしていたフェルザーは、そのメモを最初から読み直し、顔を上げた。
「これまでの話をまとめると、ヘルハウンドは体長3メートルから5メートル、体重800キロ以上。身体能力が非常に高く、人間を喰う。殺害するには首と胴を完全に切り離す必要がある……」
「そうだ」
「発生した原因は不明」
「まだ報告に上がってこないな」
「新たな発生は、今のところなし」
“今のところは、なし”──
ふとデ・フレーセの心に黒い影がよぎる。
今の時点で、第2居住区を完全に封じてしまえばいいのだ、これ以上被害が拡大する前に。第2居住区だけでなく、すべての居住区を封鎖すべきだ。やり方などいくらでもある……。
「以上が、イゾラ大尉からの報告だが、まだ事態は終息した訳ではない。フェルザー大尉」
「はっ。新たに伝令兵を出し、引き続き情報収集に努めます」
「こっちの居住区の警戒も怠るなよ」
「はっ」
「リュークヴィスト准尉を呼び戻してくれ」
「……は?」
フェルザーのみならず、皆がぽかんと首をひねった。
アデルは現在、ヘイデン地区の最前線にいる。事態は終息した訳ではない、と言った側から、なぜ呼び戻せなどと?
「実は明日、ジスカール侯爵の誕生日でね。知っているだろう、侯爵は軍に多額の寄付金を寄せていらっしゃる」
「いや、ですが……」
狼狽しながらも口を開いたのはターニャだった。
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