Chapter 3

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「恐れながら、我が国は現在、非常事態宣言下にあります。このような時に誕生日だからと……」 「いや、だから侯爵自身も大事(おおごと)にはされておらん。だがこちらとしては、敬意を表するいい機会なのだ」 ゴマを()るいい機会って訳ね……。 ターニャは鼻に皺を寄せ、嫌悪を(あらわ)にした。 「敬意を表したいだけなら、なにもわざわざアデルを呼び戻さなくてもいいでしょう」 「侯爵はスパルナ族をいたくお気に召していてね。こういう機会でもないと、なかなかアデルを会わせられないからね」 「アデルは人身御供ってヤツですか」 「ターニャ、よせ」 フェルザーが短く、鋭く制すると、しぶしぶターニャは引き下がった。そっぽを向き、頬を膨らませている様子は、まるで幼い子どもである。 事の成り行きをじっと見守っていたイリヤだったが、いたたまれなくなり、隣に座るハーヴェイにちらりと視線を向けた。すぐにイリヤの視線に気付いたハーヴェイも、困惑しきった目を返す。 ヘルハウンドについて、第2居住区について話しているんじゃなかったのか? それがなぜ誕生日の話になる? 胸にどす黒いしこりを残して隊長室を後にした。ドアを閉めて廊下へ出た途端に、ターニャの怒りが爆発した。 「なんだ、あれ! 誕生日だからって、なんなんだよ!」 「おいターニャ、聞こえるぞ」 「かまうもんか! 危機意識が低すぎる! 仮にも部隊長なんだぞ!」 興奮しきっているターニャの口を塞ぐ手立てはない。フェルザーはターニャの腕を掴むと、大股で自分の執務室へと戻っていった。
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