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「ああもう、ほんっと、あったまくる、あのタヌキおやじ!」
怒りの矛先はフェルザーの執務机へと向けられ、何の罪もない机は両手で思い切り叩かれた。
「税金だけじゃ軍をまかないきれない……解るだろう?」
「そうかもしれないけどさっ。なんで今? ゴマをすりたいなら、騒動が終わってからだっていいだろう!」
「正直、いつこの騒動が終わるか判らない、という理由もあるんだろう」
「そんなの言い訳じゃないか。兵士が危険に晒されてる時に、自分はお誕生会に参加? 子どもかよ、お子ちゃまかよ!」
「ターニャ、少しは口を慎んでくれ。新兵の前だぞ……」
そう言ってはみたが、既に手遅れである事はフェルザーも解っていた。ターニャがはっとして振り返ると、ドアの前に並ぶ新兵たち3人は皆、怪訝な表情を浮かべていた。
「ああ、少し冷静さを欠いてしまった、すまない」
ターニャ、そこじゃない……。思わずフェルザーは頭を抱えた。
「けど、安心したまえ! あのタヌキは書類にサインする事だけが仕事だ、前線で指揮をとるのは私たちだからな!」
「ターニャ、君はサインしなければならない書類が山積みだろう。夕刻までには終わらせてくれよ」
「ああっ、そうだった。いや、忘れてた訳じゃないよ、忘れてた訳じゃないからね? じゃ、新兵たち、また!」
ばたばたとターニャが出ていった後の室内は、驚くほどの静寂に包まれた。
ドアをぼんやりと見つめたまま、フェルザーは深々とため息をついた。
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