Chapter 3

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新兵を前に、上官──しかも部隊長の事を「タヌキおやじ」と言ってしまった。部隊長と言えば、新兵にとって威厳を保つ存在でないとならない。 だが、確かに、あの場で誕生日だなんだと言い出した部隊長にも非はある。非はあるが、それを新兵の前で咎めてはならない、絶対に。 「……資金調達、これは部隊長の大事な仕事のひとつでもある」 苦しい言い訳に聞こえるだろうが、ここは部隊長の面子(めんつ)を立てなければならない。フェルザーは全力で頭を回転させた。が、なかなかうまい言葉が出てこない。 「解ります」 ややあって、静かにそう答えたのはマリウスだった。その意外な反応に、フェルザーは僅かに眉を上げた。 「今のところこちらに異常はありません。第2居住区には既に多くの兵士が投入されていますし、ほんの数時間、ご機嫌伺いに時間を割いても問題はないかと。ましてや相手が軍の支援者であるならなおさらです」 本心からの言葉なのか解らなかった。ずっと不審な表情をしていたイリヤとハーヴェイは、今度はぎょっとしてマリウスを見た。 「い……いや、でもマリウス──」 「イリヤ、いま中隊長がおっしゃっただろう、こういう事は部隊長じゃなきゃできない仕事なんだよ」 納得できない。軍とは、軍人とは、戦って評価されるべきものなのではないのだろうか。 「物事にはすべて、表舞台と裏舞台がある」 マリウスの言葉の後をフェルザーが継いだ。 「士官は、上級になればなるほど、裏舞台の仕事もこなさなくてはならない。まあ、そういった面を君たち新兵に見せる必要はないのだが」
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