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「断る」
フェルザーからの書を突き返しながら無情にもアデルが冷たく言い放った。
「あの、しかし──」
「残り1頭はまだどこかに潜んでいる。そいつを仕留めない限り俺は戻らねえ」
中隊長の言葉を伝える相手は、あのアーシラルドの英雄である。不運としか言いようがない。しかもきっぱりと断られてしまった。これをまた中隊長に伝えねばならないのか。
19歳になったばかりの伝令兵リナルドは困り果て、今にも泣きそうな顔になった。
「断る理由がもっと欲しけりゃくれてやる」
「理由はいらないです、戻ってください」
泣きそうなくせに引き下がるつもりはないらしい。アデルは眉を寄せたまま、僅かに顎を上げた。
「部隊長に伝えろ……英雄は英雄らしく前線で働いているってな」
「戻ってくださいお願いします」
「こういう時の為の“英雄”だろう? テメエらがそう決めたんじゃねぇか。英雄を個人的な道具に使うなってんだ、しかもこんな非常時に」
「規律違反で処罰されますよ?」
まったく噛み合わない会話を、アデルはため息で締めくくった。
今ここにいるのはデ・フレーセ部隊長でもなければフェルザー中隊長でもない。一兵卒相手に文句を言ったところで何の解決にもならない。頭では解っているのだが、どうにも苛立ちを抑えられなかった。
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