Chapter 3

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その闇よりもなお深い、漆黒の影。 しんと静まり返った世界に、荒い呼吸音だけが響く。それが自分の発するものだと気付いた瞬間、全身ががたがたと震えだした。 ゆらり、と影が動いた。 「う……あ………」 ここから離れろ。 彩煙弾を放て。 大声で班員を呼べ。 すべき事は解っていた。しかし、どうにも体を動かせなかった。 再び影がゆらりと(うごめ)き、自分に向かって距離を詰める。 もう、駄目だ── 足の力が抜けて、のけぞるように尻もちをついた時、太陽がようやく昇り、どこかの窓に光を反射させ、ヘルハウンドの顔を照らした。 これまでニコラが目にしてきたものと違う。目の前にいるそれは、立派なたてがみを持つ獅子だった。 そして奇妙な事に、2本の足で立ち、今にも(ぼたん)が弾け飛んでしまいそうな黒いスーツを窮屈そうに身に纏っている。 これは…… ラクサーシャ……? いや、だがすべてのラクサーシャは居住区内にいる筈。居住区を脱走したのは、野獣化し、我を失った者のみ……。 迫りくる死への恐怖と新たな未知なるものとの対峙に、ニコラの思考は混乱を極めていた。正常な判断などできる筈もなかった。 目の前の恐ろしく不気味なモノに、ひたすら祈る──助けてください、殺さないでください。
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