Chapter 3

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と、ふと獅子の姿をしたモノが、ゆっくりとしゃがみこんだ。獅子の小さな金色の目が、ニコラの目と同じくらいの高さにまで下がる。 「話を、しませんか」 静かな、穏やかな口調で獅子が言った。 「我々は人間の言葉を解さないと思われているかもしれない。けど、こうしてお話しする事ができるんですよ」 獅子は確かに自分たちと同じ言語を流暢に操っている。だが今のニコラの耳に、それは“音”として入ってくるだけで、意味をなさなかった──言葉を“理解”するまでの余裕さえ失っていた。 「これまでも、何度も私たちはあなた方にお願いしてきました、お話ししてください、と。ですが、そのたびに、残念ながら断られてきました」 ふと獅子の目が光を宿したように見えて、ニコラは小さく息を呑んだ。 「なぜ、お話ししてくれないのですか?」 言葉を操ってはいても、相手は獅子そのものである。人間のように表情豊かという訳にはいかない。口調も平坦で、感情というものがまるで感じられなかった。 「お話ししてくれれば、もっとお互いを知る事ができると思いませんか? 何も知らないから、お互いが怖いんじゃないですか?」 これは一体何者なんだ──ヘルハウンドと呼ぶには理性的でありすぎるし、かといってラクサーシャというには人間の姿をまったくとどめていない。 ラクサーシャでも、ヘルハウンドでもない、全く新しい存在。 「なぜ、黙ってるんです?」 獅子の問い掛けに、ニコラははっと我に返った。
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