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「うん。最初は別になんとも思わなかった。金曜日だし、彼も飲み会なのかな、って。ちょうど次の日ランチする予定だったから、そのとき話せばいいやって」
彼女は言葉を切ると、眉根を寄せて空になったマグカップを両手で握った。
「でも、彼ひとりだったから、ちょっと気になって。あんまりお酒強くないし、ひとりで飲みに行くタイプとは思ってなくて。……で、なんとなくその店を見てたら、一緒にいた子が教えてくれたの。そこ、ゲイバーだよって」
「……なるほど」
わたしはソファの背にもたれて天井を眺めた。彼女はマグカップをテーブルに置いて身を乗り出した。
「ねぇ、先生。彼ってゲイなのかな!?」
「わたしに訊かれてもねぇ」
「ゲイバーに行く男はゲイだよね!?」
「さぁ~? ノンケの人でも行くんじゃない?」
「何しに!?」
「ママとお喋りするとか」
「だったらふつうのバーのママと喋ればいいでしょ! なんでわざわざゲイバーに行くのよ!?」
「それ、彼氏に訊いてみた? 次の日デートだったんでしょ」
彼女は口を噤んでプイとそっぽを向いた。
「……ストレートに訊くのもイヤだから遠回しに訊いたの。わたしに何か隠し事してない? って」
「で?」
「別にないって」
「よかったじゃない」
「よくないよ! ゲイバーに行ったの隠してるじゃない!」
「う~ん……。それは彼にとって隠し事ではないのかもね」
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