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そう言うと、彼女はサッと青ざめた。
「やっぱりゲイなんだ……! わたしを隠れ蓑にしてるんだわ」
「決めつける前にはっきり尋ねてみたらどうかなぁ。単なる誤解かもしれないでしょ」
「本当にそうだったらどうするの!? ショックすぎて訊けないよ!」
彼女は駄々を捏ね始め、昼休みが終わるまでずーっと愚痴り続けた。いつしかそれは彼氏のゲイ疑惑とは関係なくなって、上司に厭味を言われたとか営業先にセクハラされたとかこぼすのを、わたしはうんうんと聞いていた。
昼休みが終わると彼女はさっぱりとした様子で、『やっぱり女同士は気が楽だわ』と笑顔で出ていった。
わたしが会社のカウンセリングルームに行くのは週に二日、月曜と木曜日。彼女は木曜日には姿を現さなかった。気にはなったが、勝手に動くわけにもいかない。
金曜と土曜の夜、わたしは副業をしている。というか、もとはこっちがメインだった。今の会社の社長──ちなみに日本オタクのアメリカ人──と出会い、話をするうちにわたしが臨床系の資格を持っていると知ると、会社でカウンセリングルームを試験運用するのでやってみないかと任せられたのだ。
夕方、わたしがお店に出勤すると、野太い声で挨拶された。
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