私は兄の幸せを祝福することができない

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 私は特に部活には入っていないため、麗奈や他の友達と遊ぶ日以外はすぐに家に帰るようにしている。  「ただいま~」  「おかえり~。今日も早いね」  私が早く帰るのは、無論、紫帆さんとより長く一緒に過ごすためである。  紫帆さんは専業主婦なので基本的には家にいる。  「そうだ紫帆さん一緒にゲームしようよ」  「いいわよー。でも私のことは紫帆さんじゃなくて、紫帆お姉ちゃんって呼ぶなら一緒にやってもいいわよ」  な、なんですと~。私は思わず持っていたコントローラーを床に落とす。  「えー。それは恥ずかしいよ」  「昔はそう呼んでくれてたじゃん」  「それは小さい時だったから恥ずかしいとかなかったし」  そうなのだ。私は小さいときは“紫帆さん”ではなく、“紫帆お姉ちゃん”と呼んでいたのだ。  「じゃあ、私がゲームで勝ったら紫帆お姉ちゃんって呼んでね」  「もし負けたら呼んであげるよ」  「よーし! 絶対勝つぞ!」  紫帆さんに対戦系のゲームで負けるわけはないのだ。なぜならば紫帆さんはゲームがド下手なのである。  「あー負けたー。紫帆お姉ちゃんって呼ばせる作戦が~」  「残念でした~。そろそろ夜ご飯作る時間でしょ? 一緒に作ろ」  「いつか必ず紫帆お姉ちゃんって呼ばせるからね!」  私が紫帆さんと呼び始めたのは、私が中学1年生の頃、高校に入学してまもなく紫帆さんと兄が付き合い始めた頃だった。  兄と付き合うことがショックで、なんとなく距離を取ろうと思ったのか、この頃から自然と呼び方が変わった。
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