あれ程見るなと言ったのに

1/56
前へ
/56ページ
次へ

あれ程見るなと言ったのに

 ストーブの前で、眠る。  冬は苦手なのだ。寒いから。  朝一番で、手紙が届く音が聞こえる。今でも時々届く、彼へのお祈りの手紙を、机の引き出しにしまう。  宇和野大空(うわのそら)様と書かれた手紙を、勝手に開けては祈られる彼の辛そうな目を思い出すのだった。  千を超えた祈りの中に、一社だけ内定の文字が届いている事を彼に伝えたい。  女々しい。  でも女だし、いいか。  千以上の会社から要らないと宣言された彼は、藁でも掴もうと私を掴んでいたのかも知れない。最近そう思うのは、そんな彼に私も縋っていたからだろう。  大量のメール、電話を無視しながら、私は生きている。  彼は言った。  生きていちゃ駄目なのかと。  真っ黒な闇の様な目は、光を失い、地獄の中に消えていった。  地獄のゴウロ。  日本最凶の怪異に、あっけなく私と宇和野大空の築いた関係は破壊された。  ちがう。  破壊したのは私だ。  東海林メアリこそが悪魔なのでしょう。  彼は言った。  お前が悪魔じゃあないか。 「そう、かも知れない」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加