あれ程見るなと言ったのに

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 本当に傷ついているならば、寒さ何て我慢できそうなのに、ストーブを買い、ぬくぬくと彼の帰りを待つ私は、やっぱり、弱い人間なのですよ。  結露した窓をぼんやりと見ている。  この生活感の殆どない部屋で彼は戦っていたのだと考えると、申し訳なく思う。この部屋できっとあの窓を見つめて、今日も一秒、一分、一時間と一日を終えていく苦悩を私は知らないのです。  知ったつもりになる事は出来ますが、それはやはり彼の葛藤とは違うのでしょう。  知ろうともしなかったのですが、いつも寂しそうに笑う男の子でした。私の事を笑わせてくれる人でした。  猫探しから始めた探偵業。  スタートは彼と同じようなものでした。  私も幼く、彼の大好きな中高生の様な年齢でした。  そんな言い方が彼を追い込んでいたのかも知れませんが、誰にだって青い時期はあります。私にもやっぱりあったんだと思います。  所謂青春っていう時代が。  思い返すと、未熟である青春は、あの頃の私の精一杯だったのですが、今なら、もう過去に戻れるのならば、あんな未熟な青春は送りたくないと思います。  いえ、アレはアレで、あんな未熟さが楽しかったのかも知れませんが。  私は完璧では無かったし、宇和野大空が言うような何でも出来る、知っている私では無かったのです。  無論今も変わりませんが、それでも大人になって行く。     
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