1人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーレイチェルはその丸い目をさらに見開いた。
「なんてこと、私のドレスがぐちゃぐちゃじゃないの! だから触らないでって言ったのよ」
部屋の椅子にかけられた白いドレスは、彼女が今日のために一ヶ月も楽しみにしていたものだ。確かに今朝までは綺麗にしてあったが、これではもうクロードが来るのに間に合わない。これにはメイドのジェーンも真っ青になり、癇癪を起こすとヒステリックになるレイチェルの顔色をおどおどと伺うばかりだ。
「ロイ! 待ちなさい!」
レイチェルはそっと部屋を出て行こうとする少年を厳しく呼び止めた。ロイと呼ばれたその少年はふくれっ面で振り返ると、両手をズボンのポケットに突っ込んで肩をすくめた。
「言っておくけど姉さんが悪いんだぜ」
「なによ、いいから謝りなさいよ」
「嫌だね、あんないけ好かない野郎の何がいいんだか」
二人の言い争いにとうとうジェーンが耐えきれずロイを諌めようとしたとき、レイチェルがロイの頬を叩いた。
「お嬢さま! なんてことを!」
「あんたは黙ってて頂戴。ロイ、後で私の部屋に来なさい。いいわね」
ロイは舌打ちをし、わざとらしく音を立てて部屋を出て行った。ジェーンは気絶でもしてしまいそうな心地でレイチェルに尋ねた。
「ドレスはいかがいたしましょう」
が、意外にもレイチェルは落ち着いた様子で答えた。
「そうね、あの新しいピンクのドレスにして頂戴。あれならきっとクロードも気に入るわ」
最初のコメントを投稿しよう!