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レイチェルの頬にキスして帰って行ったクロードに嫌悪をあらわにして、ロイはレイチェルの部屋を訪れた。
「約束通り来たよ、姉さん。さっさと済ませてくれよ」
「あら、あんたが素直に来るとは思わなかったわ」
レイチェルは少し驚いたが、ロイを招き入れ熱い紅茶とクッキーを勧めた。
「クロードの残りかい。あんな軟派な野郎なんかやめた方がいいんだ」
「彼は軟派なんかじゃないわ。……今はあんたの話よ」
ロイは紅茶をすすって反抗的にレイチェルを睨んだ。
「なんだい、謝らせようったってそうはいかないぜ。悪いのは姉さんの方なんだから」
レイチェルはカタリとカップを置くと、ロイの目を見て静かに言った。
「ジェーンに聞いたのよ」
ロイは紅茶をごくりと飲み込み、信じられないというように呟いた。
「ジェーンに聞いた…」
「そう。あんた、彼女が縫い物をしているのをよく見ているそうじゃない」
ロイはとうとう真っ青になった。平然を装ってソーサーに置いたカップが不意に大きな音を立て、ロイはそれに肩を揺らした。
「待って、違うんだ」
「いいのよ、お父様に言いつけやしないわよ。それよりね、ジェーンが」
「違うったら!」
ロイはレイチェルの言葉を遮って部屋を飛び出した。レイチェルはため息を吐いてベルを鳴らし、ジェーンを呼びつけた。
ジェーンはすぐに現れた。大方部屋の前でやきもきしていたところにロイが飛び出してきたのだろう。ジェーンはひどく動揺していたが、レイチェルが落ち着いているのを見て驚いたようだった。
「お嬢さま、」
「あんたに頼みがあるの。ロイに縫い物を教えてやって頂戴」
カップを持ち上げてさらりと言ったレイチェルの言葉に、ジェーンは目を見開いた。
「お嬢さま、なぜそれを」
「あら、やっぱりそうなのね。さっきはロイに鎌をかけたのよ。この頃様子がおかしいもんだから少し見ていたの。そしたらあんたの仕事部屋を覗いているんですもの」
レイチェルは紅茶を一口飲み、続けた。
「私だってもうじき十七よ、いつまでも子供じゃないわ」ーー
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