月と雲

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

月と雲

月の面を撫で、雲がなごり惜し気に渡ってゆく。 雲が去ると月がカッとあたりを照らした。 その様子を コナゴは砂に転がって見ていた。 月と雲は、さっきの男とおれのようだな。 おれの手を掴み、月の隠れたまっくら闇を奴は走った。 ついてゆけなくなると脇に抱きかかえ、 もう片方の手を拳骨(げんこ)にしてぐんぐん進む。 あんた、誰だ 答えない。 屈強な大男。 腕は自由になったから、(すね)を思い切りひっかいた。 肘で突いた。 ものともしない。 波の音が聞こえて来た。 男が土を蹴る音と、 草が体躯をなぶるカサカサ言う音、 磯のにおい。 恐ろしい。 草むらに転がされた。 被さってきて、 仰向けになった体を(ほしいまま)にした。 月が現れると男は体を離し走り去った。 コナゴには男の何も見えなかった。 見たくもなかった。 月はあんなにまぶしく照っているのに おれは泣いているのだな。 起き上がる。 向こう脛に、引っ掻かれた時に流した男の血がぬすりつけられ 乾いていた。 衣を体に縛り付けると、コナゴは立ち上がった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!