音楽室ののろいちゃん

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 暗がりの街を二人手をつないで歩いた。 「のろいちゃん、ピアノ上手になったねぇ」  早坂が言うと、のろいちゃんはまた黙って頷いた。  佐々木紀子は早坂が去年受け持った三年二組の生徒だった。子供ながらも均整の取れた顔立ちだが表情に乏しく、性格は非常におとなしく口数が少ない。まさに人形のような女の子だった。皆からは「のりちゃん」と呼ばれていたが、次第に「のろいちゃん」と変化して言ったのはそのせいもあるのだろう。この子がクラスに馴染めるように何とかしなければと新米ながらにそう思った早坂は、彼女が音楽に興味があるのに気がつき、色々と掛け合って放課後に音楽室を使えるよう計らった。すると効果はテキメンだった。というよりテキメンすぎた。 「ワシはこの音楽室の呪いじゃ。しばらくこの娘の体を借りることにしたぞよ」  翌日、のろいちゃんはそんなことをほざくようになってしまった。  饒舌になったのろいちゃんは、さらに色々と話してくれた。楽器は人の思念を音に乗せて発するモノである手前、霊や呪いが宿り易いということ。学校の備品のように多数の人間が使うモノなら更にその確率は上がるということ。そして自らは、それら楽器の力が結集して生まれたもの、つまり『音楽室全体の呪い』なのだということ。  あっけに取られながら早坂は聞いた。早坂は幽霊や呪いなどは信じていない。しかし一言一句聞き漏らさないくらいにちゃんと聞いた。たとえ嘘であったとしても、小学生の女の子が必至に考えた設定と言うなら無下には出来ない。厨二病だろうと何だろうと、これがのろいちゃんの自己表現の形だというのなら認めてあげるべきと考えたのだ。  あれからすでに一年は経過している。いまだに「音楽室の呪い」ごっこは継続されていた。
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