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信号に捕まり立ち止まった。青に変わるのを待っている時、早坂はのろいちゃんがじっと見つめてきていることに気がついた。『音楽室の外に出ると呪いの影響は受けない』ため、今ののろいちゃんは口下手だ。街灯の薄明かりで何も言わずに見つめられると少し不気味に感じられた。「どうかした?」と聞いてみると、ようやくその口を開いた。
「先生、なんか悩んでる……」
小さな声だったが、その言葉は車の走行音に紛れてもはっきりと聞こえた。
無意識の内にため息をついてしまったか、それとも顔に出ていたのか、早坂には分からなかった。彼女の見せる異様な凄味のせいで、心の内を見透かされたようにも思われた。
信号が青になった。
「大丈夫。何の問題も無いよ」
殊更に笑顔を作ると、早坂は歩き始めた。
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