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現実にもどされて、あたしはため息をついた。でも気持ちを切り替えてにっと笑う。
「そのときは、あんたコーチやってよ」
「ふざけんな」
エースははずかしそうに頭をかく。
「あと、高橋さんやきさらぎ荘のみなさんにもうんとお礼いわないと」
「やあ、僕のことうわさしてる?」
変人がやってきた。特にうわさをしていたわけじゃないけど、あたしは恩義を忘れたりしない。
「今日はありがとね、カイ」
「いや、僕だってキャッチボールくらいさせてくれるだろ?」
にこっとする顔はちょっとかわいい。
「あたしも。教えてねみずき」
あんながひょこっと顔を出す。
「もちろん、ありがとう、心の友よ」
抱きしめたら、またきゃっと悲鳴を上げた。
カイが高橋さんに聞いている。
「ここは女子寮なんですか?」
あっ、とあたしは初めて気がついた。そういえば、ここにいるのはみんな女の人だ。小さい赤ちゃんやおばあさんまで年齢はいろいろだけど。
「そうなの」
高橋さんが答えると、カイは頭をかく。
「じゃあ、僕がここにいたらまずいのかな」
高橋さんはくすっと笑う。
「君は大丈夫。とても礼儀正しくて紳士だから。それに18歳未満だしね」
そっか、そういう規則なのか。
それを知ってて、ひぐっちゃんは中に入らなかったんだ。
「高橋さん」
さっきのおばあさんが声をかけてきた。
「この子たちに手伝ってもらえばいいじゃない」
高橋さんは笑って首を横に振る。
「しっかりしてるけど、この子たちは中学生ですよ、望月先生」
「だって、もう夏休みでしょう?」
「なんです?」
こういうことに口をはさまないと済まない性格なのだ、あたしは。
「ここにいる高橋さんは正義の味方なのよ」
望月先生と呼ばれたおばあさんは、CMの製品紹介みたいに手のひらを向ける。
「やめてください」
高橋さんは困り顔だけど、おばあさんは続けた。
「とても有能な社会活動家なの。すべての困った人たち、特に女の人の味方。わたしのような寄る辺ない年寄りに住まいを用意してくれたり、仕事のない女性や体の不自由な人たちに勤め先を作ってあげたり」
「へええ」
なるほど、ここはそういう人たちの家なのか。全然わからなかった。
「ですから、私ひとりでしてる訳じゃないですから」
うちわであおぐみたいに手を振って、高橋さんは謙遜する。
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