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「だけど、苦労のほとんどを、あなたがかぶってるじゃないの」
「いえいえ」
「今もとても困ってるのよ、この人」
あたしはきっぱり顔を上げた。
「なんでもいってください。ご恩返しに、なんでもお手伝いします」
◇
「そういうのは、話の内容聞いてから引き受けるもんだぞ」
ひぐっちゃんは窓枠に背中で乗って、足を上にしたとんでもないかっこうで、あたしに説教する。
あたしはまぶたを半分下げた。
「そんなに暇なら、ひぐっちゃん手伝えば」
「暇じゃねえよ、ああ爪伸びたなあ切らなくちゃ、忙しい忙しい」
器用に体をまるめて、真上の足の指をチェックしている。
このままどおん、と真横に押し出したい衝動にかられる。が、あたしももう子どもじゃないのでしなかった。
それに、今はわくわくうれしかったからだ。
「でもさあ、懐かしいよねえ、不思議だよねえ、こういうのを運命っていうんじゃないの」
「松宮のおぼっちゃんはやんの?」
気のないふうに足の爪をいじってる……でもあたしにはわかる。
カイの家や学校は都心にある。五年生のとき、ちょっとした事件で知り合った。そのころからあのとおりのおぼっちゃま。普通の大人から見たら、ちょっと変だけど頭もいいし常識もあるし、背もだいぶ高くなった。
ただ、なぜかあたしの顔見るたんびに、訳のわかんないこといいだすんだよね……つまり、その、将来あたしと結婚するとかそういうこと。
ほんと冗談やめてほしい。このごろは突っ込むのもめんどくさいので放置している。
「ダメなんだって、夏期講習とかキャンプとかいろいろお忙しいんだって、泣いてたよ、カイ」
「あはは、ざまー、一生行ってろ」
ひぐっちゃんは朗らかに笑う。
「あたしとあんなと、エースでやるんだよ」
「へえ、あいつも?」
意外そうな顔だ。
「そ、あんなはカフェであたしがショップフロアで、エースは皿洗いとか厨房のお手伝いをするの」
高橋さんの会社でやってる、カフェ付きのパン屋さんがある。
そこは昔、ひぐっちゃんの知り合いの鉢の木さんがやってたお店で、あたしとあんなは、小学生のときにちょっとお手伝いしたことがあった。鉢の木さんが外国へ行くことになったので、後を引き継いだのが高橋さんの会社だった。
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