第1章

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 あたしたちは急いで気をつけをした。  「「はい」」  おばさんはにこにこした。  「あら、おふたりともかわいらしいこと。じゃ、みんなに紹介するからついてきてね」  マトリョーシカおばさんは小山さんといって、「パンとカフェ きぼうの丘」の店長さんだった。   お店は三角屋根と黄色い石造りの壁と、大きな明るい窓のかわいい建物だ。手前にパン売り場、奥がカフェ。パンがおいしいので、お客さんがひっきりなしにやってきてとても忙しい。  働いてる人は全部で十人くらい。交代勤務でいつもは五人くらいがお店にいる。  あたしと同じメイドさん風のユニホームと、マトリョーシカおばさんと同じ上下白い服の人が半々。  朝礼で並んだ白い服軍団の後ろに見覚えがあったので、あたしはうれしくて手を振ったら、エースは大きな人の陰にかくれちゃった。  あたしたち三人は前に呼ばれて、自己紹介させられた。恥ずかしい。  そのあと、あんなとあたしは大学生バイトの曽根崎さんにくっついて、午前中ずっとパンや料理の種類、サービスやレジ打ち、掃除までみっちりやり方を教わった。  やっと休憩時間がきて、裏庭でランチをとることにした。冷房のある休憩室もあるけど、外に出たかった。  セミが鳴いてむっと暑いけど、裏庭もやはりかわいらしい。小さなハーブの畑と植木が涼しげに木洩れ日を揺らす。木陰にはワイン樽や木箱が置いてあって、自由に座っていいことになっている。  支給されたランチに手もつけず、あたしたちはため息をついた。  「覚えた? あんな」  「ううん、全然自信ない」  午前中にとったメモを見合わせて、またため息をつく。  「はああ、社会って厳しい」  「まだ全然働いてないのに」  「鉢の木さんのときは、わたしたち遊んでただけだったね」  「そう、おままごとみたいなもん」  そろってため息をつきあっているところへ、エースが出てきた。白い帽子を脱いで、水から上がった犬みたいにぶるぶる頭を振った。  あたしはそうっと近づいて聞いた。  「どう、エース?」  「……うん」  エースは顔を上げて、にこっとした。  「おもしれえ! 楽しい!」  つられて、あたしとあんなも笑っちゃった。  「そうだね、楽しいよ、新しいことだらけで」  三人でおしゃべりしながら食べたクロワッサンサンドとアイスティーは、とてもきれいでおいしかった。
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