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あたし、エースのこと小さい子どもみたいに思ってた。恥ずかしい。
あんなもショップフロアでパンやお菓子を売るし、あたしもカフェでウエイトレスをする。パンやお菓子の名前と値段をすっかり覚えると、外国で言葉が通じるみたいに、仕事はずっと簡単でスムーズで楽しくなった。
それもきっとまわりの人から見たら、おままごとなんだろう。いっしょに働く人もお客さんもみんなやさしいし。きっと中学生並みの「社会」なんだと思う。
余裕が出てくると、エースの働きぶりも見えるようになった。ほとんど声は聞こえないけど、そのぶんあたしなんかよりも集中して仕事をしている。お皿や天板を洗ったり、調理台を磨いたり、焼きあがったパンを店に出したり、とにかく一生懸命働く。
あたしもがんばらないと。中学生並みでも、その中でうんとベストを尽くすのだ。
◇
「ん?」
定期の拭き掃除をしていて、あたしはふと手を止めた。
なんだろう、何かが違う。
「どしたの、みずき?」
トレイをかかえたあんなが来た。
二時を過ぎた。忙しいランチとティータイムにはさまれた間の時間で、カフェには今お客さんがいない。ショップフロアでおばあさんがひとり選んでいるだけだ。
ちょうどエースが、焼きあがったクロワッサンのトレイを持ってきた。
「クロワッサン、焼き立てでーす!」
エースの代わりにあたしが叫んであげた。おばあさんがよろよろ近寄って、三つとってレジに向かう。
おばあさんが出て行ってから、
「どうかした?」
エースにも聞かれて、
「このバゲットの籠なんだけど……」
そんなに確信のあることじゃないので、首をひねりひねり答える。
「こんな、横っちょだったっけ?」
カフェとの境の棚だ。長いバゲットを立てて入れる籠。いつも真ん中にあると思ったんだけど、妙にきつきつでほかのパン籠にくっつけて置かれている。
エースはちょっとあきれたふうに、
「もどせばいいじゃん」
と真ん中にもどした。
「あ、」
あんながトレイを抱きしめる。
「わたしも、きのうそうやって直した」
「だから?」
エースはやっぱりあきれたふうに、厨房へ引っこんだ。
その日はそれで済んだ。
「でもそれから毎日、横っちょにいってるの、その籠が」
聞いてるのか聞いてないのか、ひぐっちゃんは味噌汁のしじみをちまちまほじり続ける。
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