第1章

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 「異物混入とかそういうのあると困るから、あたし店長さんに報告したよ。そいでみんなでいろいろ調べたんだけど、特に怪しいことはなかったし、お客さんから苦情もきてない」  探偵さんはがつがつ食べてるだけで、あまり役に立ちそうもない。  ただ、とんかつを全部平らげておじいちゃんのコーヒーを飲んだ後、  「パンの籠がひとりで動くわけないだろ、ばーか」  とだけいって、二階へ引き上げた。     ◇  ってことは。  「つまり誰かが動かしてるってこと?」  あんながほっぺに手をやる。  「普通に考えたらそうだ。だれでも思いつく」  エースはあきれ顔だ。  あたしは二人に目配せして、力強くささやく。  「だから、あたし見張ってようと思う。見つけしだい、ふんじばってやる」  「ええ?」  エースは笑う。  「捕まえてどうすんの? 万引きしてるわけじゃねえし、何が悪いんだって居直られたら、めんどくさいぜ」  「そうだねえ」  あんなも首をかしげる。  「トラブルになって、お店に迷惑をかけたら困るよね」  「そんな……」  あたしは肩を落とす。夕べからふんじばる気満々だったんだけど、いわれればたしかにそうだ。  「でもさ、なんでそんなことするのか気にならない? あたし、超気になるんですけど」  「まあね。でも……」  ふたりは顔を見合わせる。  「じゃあさ、とりあえずふたりもそれとなく見張っててよ、見つけても声かけたりしなくていいから。あとで様子を教えるだけでいいから」  「店長にいう?」  あんなが聞いたけど、あたしは首を横に振った。  「忙しそうだし、大ごとになるから黙ってよう。真相があらわれて、それが深刻なことなら相談する」  「深刻ってなんだよ」  エースが鼻で笑うので、あたしはむっとする。  「例えば、泥棒の秘密の合図だったり、店をひそかに混乱させて注意をそむけたすきに、地下トンネル掘って銀行強盗するとか」  あんなとエースはまた顔を見合わせて、同時に吹きだす。  もう、真面目にいってるのに。  抗議しようと思ったとたん、レジにもカフェにもお客さんがやって来て、あたしたちはそれぞれの仕事に戻った。  どうしたって気もそぞろになる。
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