第1章

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 「知ってる人だった? 例えば、よくお店に来るお客様とか。いっしょに来た人はいた?」  さすがわが心の友、的確な質問だ。  エースは首を押さえて、ふうと息をついた。  「さあ、見た限りでは連れはいなかった。おれはあんまり長い間フロアにいねえから、お客かどうかもわかんねえ。でもどっかで見たことあるような……こうやって」  横にあった電柱を両手でつかむ。  「かなり重そうで、一度にすっとは動かせないで、こうつっかえる感じで何度か揺さぶりながら横にずらしてた」  「それ見た、あたしそれ見た、そう、バゲットがゆっさ、ゆっさ、って動いたのだけ見た」  もっともっとどきどきしてきた。  「あたし、非番のときお店で見張る、そいでその怪しい女を尾行してやる!」  あんなは笑って肩をすくめる。あたしがこういいだしたら、何をいってもムダだってわかってるからだ。  「へえ、ご苦労なこったな」  そろりと逃げようとするエースの腰のバンドを、あたしは背中からむんずとつかんだ。  「おらエース、犯人の顔がわかるの、あんただけなんだよ!」   ◇  お店の人に見られたら説明が面倒くさいので、外で見張ることにした。  正面の出入り口が見える曲がり角と電柱の間を基地にして、エースを最前列に立てる。  「暑いー、めんどくせえー」  エースはずっとぼやいてる。  「こんなことしてる間に、三人でミニゲームできるのにー」  あたしは後ろから頭をはたいた。  「うっさいっちゅうの、ちゃんと見な」  「ううう……」  確かに暑い。真昼の太陽はじりじりあたしたちのてっぺんを焼く。帽子をかぶってたって熱は確実過ぎるほど脳へ伝導する。  「エースくん、飲む?」  あんなが水筒からスポーツ飲料をつぐ。この子、わざわざみんなの分の紙コップまで持ってきたのか。  「おお、さんきゅう」  エースはうれしそうに紙コップを受け取った。  「あんまり飲み過ぎると、おしっこしたくなるよ。そのすきに犯人が犯行に及んだらどうする」  あたしは無慈悲に言い放つ。トイレは少し離れた公園にしかないのだ。  「生理的欲求はどうしようもないだろ、みずきだってあんなだって小便はするだろが」  エースの下品な反論に、あんなは顔を赤くする。  「あたしとあんなはしないわ、だってアイドルだから」  「おまえの頭、熱でわいてるだろ?」
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