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あせっているので、我ながら聞き返す態度がひどい。
「でさ、俺らの最終的な目的はなに?」
「え?」
「つか、女がどこに行くの突き止めて、それからどうすんのか聞いてんの」
あたしはエースから顔をそらせて、
「あー、えっとですねえ」
言葉をにごす。
「そんなのわかんないに決まってるでしょ」
さすが心の友、あんなが助けてくれる。
「みずきがそんなに計算したり考えたりできるわけないでしょ、もちろん行き当たりばったりよ、ねえ?」
「ま、まあね」
あんなは全然間違ってない。そう、あたしは全く考えてなかった。
しかし真実とは、こんなにも人を傷つけるものなのね……あたしって、本当のバカかもしんない。
「はあ?」
エースはまたあきれ顔だ。それでも3階へ上りきってから、
「あっちだ」
女の背中を見つけた。
門番のようにどっしり構えたナースステーション(幸いなるかな、無人だ)を気にしつつも、あたしたちは亜麻色のカーディガンが病室に入るのを見届けた。
3階の一番奥、312号室は四人部屋だ。入り口は開け放たれている。
あんながナースステーション方面を見張り、あたしとエースが入り口そばの壁に張りつく。
ちらっと中をのぞくと、間違いない、亜麻色の女が窓際のベッド付近にいる。
話し声が聞こえる。
「今日はいないみたいだった。暑い暑い。カーテン閉めちゃうよ?」
「……うん」
亜麻色女の子どもだろう。元気のない声が答えた。こども病院にいる子どもが、元気のないのはあたりまえか。
じっ、とカーテンを引く音がした。
「入院してるのに、あーくん日に焼けちゃうね」
がさがさ紙袋の音。
「ベーコンエピと、サーモンとクリームチーズのベーグルサンド、きれいね」
「エピだけでいいや」
「なあに? がっかりしちゃって」
「……別に」
「じゃ、お茶いれてくるね」
「おわっ」
あたしとエースはあわてて壁から離れる。全速力で突き当りの窓に寄って、さっきからずっと外を眺めてましたよっ、との演技に入る。
後ろを例の女が通り過ぎる。
角を曲がってすぐのところに、お湯や水の出る流しがある。お湯をついだり食器を洗う音を、どきどき聞いた。
再び女の足音が背中を通り過ぎ、病室へ入っていった。
あたしは再び、入り口の壁に張りつこうとするが、エースはじっと上を見ていた。
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