第1章

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 黄色い帽子の小学生や、スモック姿の幼稚園生や、もっと小さい子たちや、赤ちゃんを抱っこしたおかあさんたちとかがいっぱい遊んでて、平和な公園の景色だ。ブランコやタコのすべり台も本来業務に忙しい。  「ここ、もともとボール遊び禁止だしな」  「どっか別の場所を探すしかないか……」  ため息をつきかけたあたしに、エースはにやっと笑った。  「だったら、おれんとこ来る? 庭あるし」    「あんた、ここの子になったの?」  行ってみるとそこは、たまに通る道沿いだ。  周囲に高い塀があってとても……(言葉を選ぶと)クラシックな木造の建物だ。正面の、鉄のおりみたいな門からからのぞくと、三角屋根の下に針が一本だけの時計がついてて、ホラードラマかなんかで見る、昔の小学校の廃墟みたい。  まさか、人が住んでたなんて。  エースはあたしを見て、ちょっと肩をすくめた。  「知ってるよ、まわりじゃ『お化け屋敷』って呼んでるんだって?」  「知っとりましたか」  近づいてよく見ると、やっぱりすごい。  高い塀は緑のつたに覆われ、その上にはぐるぐるの鉄条網まで乗っかってる。  門の鉄柵はあたしの背の倍くらい高くて、てっぺんは全部つんつんとがった矢印になってる。  「……なんか、入るのめっさ拒否されてる感が強いのですが」  エースはあたしをちらっと見て、  「おまえは大丈夫」  と門のわきのつたの中に手をつっこんだ。 ― はい。  スピーカーを通した声がして、  「6号室のしげるです。友だちが一人入ります」  エースが答えると、  門が、  がちゃん、  と一回震えた。  飛び上がるくらいびっくりしたけど、あたしは素知らぬ振りをした。  エースが押すと、簡単に開いた。  あたしらが入って、エースが閉めると、再び、  がちゃん、  とドアが鳴った。  まさかの……オートロック? ここ何?  「ようこそ、きさらぎ荘へ」  あたしがびびってるのを見抜いて、エースはにやにやいった。    門から一歩入ると、表を通る車の音も消えて、気温までしんと涼しくなった気がした。  塀の裏側はみっしり木々が茂って、足元には苔が生えている。転々と四角い飛び石が建物へと続く。  「こういうのってさ」  飛び石を踏み外さないように、あたしは慎重に足を運んだ。  「サメのいる海に落ちちゃわないようって、トライしなかった?」
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