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先を行くエースはあたしを振り向き、ちょっと笑う。
「サメじゃねえ、ワニだ。とおっ」
果敢に、二つ抜かした向こうの石へ跳んだ。
あたしはげらげら笑う。こういうの、すぐにわかる子とわからない子がいるんだ。
「よおし……とおっ」
対抗して三つ抜かしに挑戦したけど、失敗してあたしは苔の沼に沈んだ。
やっと玄関にたどりついた。
全体は三角屋根で洋風な建物なのに、入り口は和風の引き戸だ。エースががらがら開けると、曇りガラスがびりびり鳴った。
よその家のにおい。旅館みたいな広い玄関。
旅館と違うのは、わきにすのこと靴箱があって、傘があったり縄跳びの縄がかけてあったり、なんだか学校チック。その隣には郵便ポストがたくさん並んでいる。ここで靴を脱いであがって、それぞれの部屋へ行く方式なのだろう。
靴箱の反対側に小さなカウンターと窓がある。そこから人が顔を出した。
「おかえりなさい、しげるちゃん」
歳はうちのおかあさんくらいかな。きちんとした感じの女の人が顔を出した。
「ただいま、高橋さん」
ってエースは普通に答えた。
「あ、その子ね、こんにちは」
やさしそうな人だ。にっこりする。
「こんにちは、相川瑞樹です」
あたしはぺこりと頭を下げた。
「寮監の高橋かおるです。その制服、五中?」
あたしみたいな子どもにちゃんとフルネームで自己紹介してくれた。
「はい、一年生です」
「まあ、なら……」
エースは靴の先でふくらはぎをかきながら、あたしたちの会話を聞いていたけど、思い切ったふうに、
「高橋さん裏庭でキャッチボールしていい?」
って一息で聞いた。
「キャッチボール?」
高橋さんはちょっと困った顔になって、窓から引っ込んだ、と思ったら向こうのドアから出てきた。
「……うーん、キャッチボールかあ、あそこ草ぼうぼうよ」
会社に行くみたいなスーツ姿だ。
「おれ、草むしりします」
エースは辛抱強くいった。
はっと気がついて、あたしはいった。
「あたしたち、とても上手なんです。建物の壁やガラスにぶつけたりしません」
高橋さんはくすりと笑い、玄関のすのこへ下りた。
「それはさぞ、上手なのねえ」
顔や体がちょっと熱くなる。だいぶ出しゃばりな言い方だった。
「じゃあ、ちょっと見に行ってみましょうか」
そういって、高橋さんは近くのサンダルをつっかけた。
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