第1章

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 裏庭は建物と塀にはさまれた、細長い場所だった。  でも、あたしはびっくり。  「広―い」  25メートルプールだって、3コースぐらい置けるんじゃないだろうか。確かにすさまじく草ぼうぼうで、建物際に洗濯物のはためく干し台がいくつか置いてはあるけど。  「ちょっと投げていい?」  エースはとっくに軟球をにぎりしめていた。  「気をつけてね。じゃあそれを見て考えようかな?」  物干しにもたれるように立って、高橋さんは腕を組んだ。  なんだかプロ野球の入団テストみたいで、緊張した。     ◇  「そしてあたしたち、テストに合格しましたの」  出しゃばり気味に自慢する。  「ふうん」  ひぐっちゃんは窓枠に乗っかって、タブレットに何か打っている。すきを見てのぞこうとするけど、絶対見せてくれない。  「それであさって本格的に草むしりするの、お弁当持って。楽しそうでしょ、来たいなら、特別に来てもいいけど?」  おっさんは顔も上げない。また肌色の多い動画見てるのかな。  あたしは身を乗り出し耳元でささやく。  「りょーかんの高橋さんって、美人がいるよ」  「その手にゃあ乗らねえ」  タブレットを抱えるように隠して、やっぱり見せてくれない。  「ちぇー」  やさぐれてその場に寝っ転がると、やっとこっちを見下ろす。  「トム・ソーヤのペンキ塗り作戦じゃねえか」  「お、知ってた?」  起き上がって感心する。なんだかんだいって、この人、大人じゃん。  英語のテキストに出てきた。トム・ソーヤが言いつけられたペンキ塗りを、さぞ楽しそうにやって見せて、まんまとほかの子にやらせちゃうやつ。  ひぐっちゃんはまたタブレットにおっかぶさる。  「物置に電動トリマーがあるから使えよ。ジジイにいえば出してくれる」  「とりま……?」  「ちっこいチェーンソーみたいなやつ。細い枝ぐらいなら刈れる。でも、おまえみたいなそそっかしいのが使うと、13日の金曜日になって血の雨が降るかな」  「今、降らせてみる?」  ひぐっちゃんは恫喝に屈せず、タブレットを見せてくれた。  肌色じゃなくて緑色の多い写真。  「知り合いに、使わなくなった防球ネットを持ってるやつがいる。ちょっと遠いが取りに行ってやってもやぶさかではないが?」  「ははあ、ありがたや~」  きちんと座りなおして、あたしは深々土下座した。顔を上げて、
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