第1章

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 「だからあたし、ひぐっちゃん大好き」  っていったら、ぷいと外を向いてしまった。     ◇  あたしは「トム・ソーヤ作戦」をあきらめなかった。  草むしりやネット張りには、多大な人手を要する。  あたしの陰謀はなんとか成功して、智春さんは当日朝四時起きで、おおむね5人分以上の弁当をつくるハメになった。  ひぐっちゃんがお弁当と、ネット張りと草刈りの用具一式と、あたしとあんなを車で運んでくれた。  門の前にはカイが待っていた。背中のリュックが大きくふくらんで、両脇に大っきな四角いカバンを下げている。だいぶ重そうだ。  お弁当はこっちで出すっていったのに……何持ってきたのかな。  「やあ、みずき、元気そうだね」  口調が大人っぽいのがおかしい。  なんだよ、チビのくせに……ってからかおうと思ったけど、あれ? この子だいぶ背が伸びたな。でもまだ、あたしよりはチビだけど。  「鴎さんは?」  って聞いたら、偉そうに鼻からふん、って息を吐いた。  「今日は、僕ひとりで、電車で、来た」  それ、えばっていうこと?   おかしかったけど、あたしはあえて突っ込まない。  生まれた時から、運転手付きの自動車で移動するおぼっちゃんの生活なんて、あんまりよくわかんないし、それほど興味もないからだ。  こういうとこ、あたしホント大人になったよねえ。  でも専属運転手の鴎さんはとってもいい人だから、会えなくて残念。  「おはよう、松宮くん」  少し赤い顔で、あんながカイに挨拶した。ツインテールには透き通った緑色の髪飾り、パステルグリーンのスポーツウェアでいつにも増してかわいい。カイとは、たまにいっしょに遊ぶので顔見知りだ。  「またまた碑文谷さん、カイでいいって」  「じゃあ、あたしもあんなでいいよ」  この子たち、会うたんびにこういう会話してる気がする。  しかし、あんなはどんな男子とでも、話すと真っ赤になるな。見てて面白い。  乱れてもいない髪を、カイは気取ってなでつける。  「だってみずきの親友なら、僕には奥さんの親友だろ」  「!」  背中がぞわっとなって、あたしは口も聞けない。  すると、目の前でカイの体がリュックごと宙に浮いた。  「うえっ」  ひぐっちゃんがカイのシャツの胸をつかんで、軽々目の高さまで持ち上げた。  「おはようございまーす、松宮のおぼっちゃまあ」
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