第1章

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 口は笑っているけど、サングラスをしているので目はよくわからない。  「あう、ひぐち……さん、あう」  男どもがばたばたやってるのを無視して、あたしはつたの中へ手をつっこむ。  ― おはよう、みずき。  すぐにエースの声が響いた。  「すごい、テーマパークのアトラクションみたい」  あんなもカイの心配を中断して、感心した声を出す。    扉が開くと、ひぐっちゃんはカイを下ろした(つき落とした、ようにも見えたけど)。  車から、次から次へ荷物を出して門の前に置く。全部を下ろし終えるとぽんぽん、手を払った。  「じゃあガキども、せいぜいがんばれよ」  車に戻ろうとする。  「え?」  あたしは汚いコートをつかまえる。  「ちょっとどこ行くの? ポール据えたりネット張ったり、子どもだけじゃできないよ」  「くっつくな、バカ」  あたしを引きはがして、ひぐっちゃんの声は冷たい。  「甘えんな」  ポケットから折りたたまれた紙を出した。  「やり方はここに書いておいた。道具もある。少しは頭と体を使ってみろ」  カイがにっこり、ひぐっちゃんの前に立つ。  「どうぞお任せください。僕がみんなのケガのないよう指揮します」  あからさまに無視して、ひぐっちゃんは門の中を見た。  「おはよう、樋口さん」  出てきたのは高橋さんだ。そのうしろにエースがいた。  あたしが手を振ったら、はずかしそうに高橋さんにかくれちゃった。  ひぐっちゃんは大人みたいなまじめな顔で、  「無理いって悪かったな。じゃあガキどもを頼む」  とだけいって、車に戻っていった。  高橋さんは首を横に振って何かいいかけたけど、車はさっさと出発してしまった。  あたしは……何をいっていいのか、わかんなくなった。  ふたりが顔見知りで、それもかなり親しげで、それをあたしに教えてくれなかったことが、軽いパンチみたいに心に食い込んだ。  「みずき?」  あんなに顔をのぞかれていた。  「やあやあ、みずきがいつもお世話になってます」  その向こうでは、カイがエースをつかまえて、ぶんぶんむりやり握手している。  あたしはにこっと口の端をつり上げ、  「じゃあ、みんなで手分けして荷物を運ぼうぜ!」  裏返った声を張り上げる。     ◇  草刈りだけで午前中いっぱいかかった。草刈りって、刈るよりも刈った草を集めたりビニールに詰める方がずっと大変。
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