第1章

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 かなりへとへとだったけど、やってよかった。庭がすっきりしてもっと広くなったのもそうだけど、いつもは知らない人には内気なエースとあんなが、みんなとちゃんとしゃべったり笑ったりできるようになったからだ。  そのあと、智春さんの豪華絢爛なお弁当はみんなを劇的に元気づけた。  笹船に乗ったお寿司や、数えきれない種類のおかずに、色鮮やかなサンドウィッチ。鶏のから揚げや卵焼きなんかの基本ラインも標準の遥か上だ……お正月以外でお重箱使うのなんて初めて見たよ。すごい量。  でも中坊たちの食欲もすごかった。あっという間に空っぽにして、みんなは満腹、大満足でその場に(あんなだけは自前の敷物の上にそっと)ひっくり返った。  草の匂いいっぱいの地面に寝ころぶと、入道雲の空。今年初めてのセミの声が聞こえる。  ここは日陰なので、そっと吹く風が気持ちいい。  「夏だねえ」  まぶたが重くなる。  眠りに落ちる寸前、このすてきな昼休みのことを智春さんにいっぱい話そう、ってあたしは思った。    午後はもっとハードだった。  高いポールを立てるには、まず土台をしっかり地面に深く埋めこまなきゃならない。何度も何度も失敗したけど、あたしたちはあきらめずに挑戦した。  そう、朝の来ない夜はない。やまない雨はない。立たないポールと張れないネットも、またないのだ。  最後に、エースがネットの張りを調整し、あたしが慎重に全体のバランスを確認した。  「よし、OK」  「……終わった」  エースがその場にくずれ落ちる。  「やったね」  あんながぱちぱち手をたたき始めて、それがわあっとみんなに広がった。  気がつけば、建物の窓からいろんな人たちがのぞいて拍手をしていた。  「ご苦労様」  振り返ると、高橋さんとカイがテーブルを運んできた。  「まだ暮れるまで時間があるから、お茶にしましょう」  カイが、テーブルの上に、銀色のダルマみたいな妙なものをセッティングする。支度しながら、建物の窓に向かって声を張り上げる。  「皆さんもいかがですか? とっておきのロシアンティーをごちそういたします」  「ろしあんてい?」  あたしが首をかしげると、えらそうに命令する。  「みずきも手伝え、まずは手を洗って来いよ」   エースがおそるおそる銀色のダルマに近づく。  「なにこれ?」  下についている小さな蛇口をつまもうとする。
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