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その日の空は青く澄みきっていた。
学校の門を閉めるからそろそろ校舎から出るように、というアナウンスを聞きながら俺たちは重い腰をあげると、顔を見合わせた。
「じゃあ、行くか」
ほとんどの生徒はもう学校を出て行ってしまったのだろう。校門に向かって歩く俺たちのほかには誰もいなかった。
六年間を過ごした校庭を、俺たちは歩く。
優斗は何も言わない。俺も何も言わない。
ただただ無言のまま歩き続けて、校門の前にたどり着いた。
「なあ、達也」
「ん?」
校門の前で、俺たちは卒業証書を手に、思い出のたくさん詰まった校舎を見上げた。
もうここに、俺たちの居場所はない。
「お前と過ごせて幸せだった」
「ああ、俺もだよ」
こみあげてくる涙を必死に堪えると、俺は微笑んだ。
そんな俺を見て、優斗も笑う。
「またな、達也」
「またな、優斗」
ここで過ごした日々を俺たちは決して忘れないだろう。
大切で切なくて愛しい日々を。
いつか思い出して、青臭かったと笑える日が来るだろうか。
「っ……」
優斗に背中を向けて歩き出した俺の頬を、次から次へと涙が伝う。
本当は今すぐにでも走って、優斗の背中にしがみついて行かないでと縋りたかった。
キスをして彼を求めて、彼に求められたかった。
でも、あの校舎から俺たちは出てしまったのだ。
あのベッドの上でお互いの首に手をかけたあのときに、子どもだった俺たちは死んだ。
幼くて、幸せで、青臭くて、幸せだった日々は――終わったのだ。
それを糧に俺たちは、きっといつか大人になるのだろう。
ほろ苦ささえ、懐かしむ日が訪れるのだろう。
「ゆう、と……」
いつか、彼の名前を呼んでも胸が苦しくならない日が来るのだろうか。
そんなことを俺は思いながら、彼のいない道を一人歩き始めた。
いつまでも忘れられない想いを胸に抱えたまま――。
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