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「悪い、遅くなった」
その声で、俺は待ち人がようやく来たことに気付いた。顔を上げるとそこには、彼の姿があった。
「遅いぞ」
「仕事が長引いてな。……何、見てんだよ」
俺の手元の週刊誌を手に取ると、彼は苦笑いを浮かべた。
写真で見るよりも実物の方が若く見えるな、なんて言うと余計なお世話だと言って彼は――優斗は笑った。
「十年ぶりか」
「ああ、やっと会えた」
「会いたかった」
「俺もだ」
もうあの頃に戻ることは出来ない。
でも――。
「再会に、乾杯と行こうぜ」
「ああ」
彼が注文したワインが届くと、俺たちはグラスを打ち鳴らした。
喉に流し込んだ液体は、あの別れの日のほろ苦さのように、焼かれるような暑さを感じながら俺はそれを流し込んだ。
懐かしくて愛おしい子どもだったあの頃を思い出しながら。
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